No.007越前市京町
SPOTLIGHT

洋館(医院建築)のある古民家

歴史深い町のランドマーク。
百年以上京町と生きてきた、
医院建築が魅力の古民家。 歴史深い町のランドマーク。
百年以上京町と生きてきた、
医院建築が魅力の古民家。
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POINTS

  • #古民家
  • #明治
  • #国登録有形文化財
  • #医院建築
  • #擬洋風建築
  • #古典主義
  • #左官
  • #松
  • #駅近く

AREA

建物種類 ①居宅 ②居宅+倉庫 ③物置
築年 ①明治41年築 ※国登録有形文化財
②明治36年築
建物面積 ①医院(洋館):148.76㎡(44.99坪)(1F 74.38㎡、 2F 74.38㎡)
②居宅:48.76㎡+倉庫:1F 33.05㎡、2F 33.05㎡ 合計 114.86㎡(34.74坪)
③物置:22.31㎡(6.74坪)
他、カーポート・外便所有り
※公簿面積
土地面積 606.79㎡(183.55坪) ※公簿面積

FEATURES

越前市に京町という町があります。
かつて国府がおかれ、地方政治の拠点であり産業・文化などの先進地であった旧武生市の中心部に位置します。歴史の深い旧武生市の中でも、古く雰囲気のある建物がとにかく目立つ京町。
当時は入り難いほどの敷居の高さを想像する町に、今、歴史と文化の魅力に引き寄せられた若い人たちが少しずつ入り込み新しい息吹が芽生えています。お洒落なお蕎麦屋さん、美味しいイタリアン、チャーミングなおばんざいやさん、かっこいい美容室。
生き生きと、それでいて当時を引き継ぐかのように、京町の時間は動き続けています。

今回、ご紹介するのは、歴史ある京町のランドマーク。
百年以上京町と生きてきた、洋館(医院建築)のある古民家です。
道沿いに植えられた7本の松の木がブラインドの役割をはたし、控えめなのに、隠しきれない存在感。どこか女性的な佇まいの気立てのいい洋館は、歯形や薬瓶と並んでパブロ・ピカソのポスターを飾る、一人のハイカラな歯医者さんの手によって生み出されました。

歯医者さん。昔から、お医者さんより少し身近で、でもやっぱりどこか孤高の存在。
消毒液の匂いのする診察室に並ぶ歯形は、彫刻やアート作品にも見えて。歯科医院はアトリエのようにも。

時代は明治。
260年続いた江戸幕府が終わり開国し、西洋から多くの文化を取り入れられた時代。
『散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする』
人々の生活も大きく変わっていった時代に、ハイカラな歯医者さんがワクワクしながら建てた擬洋風建築の歯科医院です。

洋風の意匠を全体に纏ったデザインです。
外観は石積に似せたモルタル洗い出しの仕上げで、両開きの鉄扉を設けた木製の上げ下げ窓を規則的に配置。入口には櫛形のペディメントが設けられ、繰型、ペディメントの内部の模様、頂部の飾りなど緻密な左官技術が生かされています。両側の円柱は孟宗竹を用い、その上に藁縄を巻いて下地とし、ぬいご箒にて洗い出すという技術。

医院(洋館)1階部分。
ほぼ正方形の洋館の1階の間取りは、玄関を入って正面に8畳和室の待合室。
北側の技工室と診察室だった8畳づつの洋風の空間は、壁から天井まで漆喰で仕上げられています。両開きの鉄扉をつけた縦長の木製の上げ下げ窓が規則的に並び、古典主義の意思が感じられます。
当時の腕利きの大工の棟梁と、あたりで評判の左官職人の技術と思いが詰まった仕事だから、今も当時の姿を見せてくれているのです。

2階には、保存状態の良い和室が3間。
前庭に7本のブラインド松を植えたり、1階の待合室に『生松堂』と書かれた扁額を飾るほど、松を愛した歯医者さん。和室3間は見事に松尽くしです。
洋風アンティークと日本家屋が出会った、チャーミングな和室。
床の間と並んで、両開きの洋風窓が存在感を発揮。換気口の装飾も洋風な幾何学模様にも見え、体感したことのない和室です。

革新的な洋風の意匠の医院と比べ、こちらは伝統的な意匠の住宅です。
土蔵を移築し住居に転用されました。
玄関から入ると、広い台所や浴室、トイレなどの水回りが並びます。
時代を感じる電話室をすぎると、細かく区切られた和室が5間。少し低めの天井は部屋ごとに違う装飾が施され、独特の雰囲気です。

医院の待合室から住居の端までコの字で縁側が設けられ、中庭をぐるりと囲みます。
特に住居の縁側は硝子戸で明るく、開け放つと家と庭が一体化。庭との距離感が驚くほど近いのが印象的でした。

かつては、診察を待つご婦人の囁き声や、治療を怖がる子供の泣き声が満ちたはずの建物も、空き家になり、体温を失い冷え切っていました。
でも、もう大丈夫。

ふくいヘリテージ協議会
「地域に眠る歴史的建造物を発見・発掘し、保存し、活用して、まちづくりに活かす」

この強者たちの手によって、慎重に丁寧に建物の時間が巻き戻されます。
ヘリテージ協議会に出会ってこの先も末永く継承されていく、それも建設当時から決まっていたこの建物の物語のようにも感じてしまうのは、建物が持つ意思の成せる業か。

そんな強さをもったこの建物は、平成11年に「再現することが容易でないもの(登録文化財基準1)」と評価され、国の有形文化財に登録されています。

推しPOINTのイメージ

デザインインテリア
ショップ元店主の
推しPOINT

建物、造作、納まり、植栽、機械や小物、本……ここにいると気になるものが多すぎて、仕事が進みません。調査をしていると、おさまりひとつにも「ほぉ…」となり、手が止まってしまいます。
兎にも角にも、ハイカラな和と洋がミックスされた独特の空気感を持つ空間が、活用者の手によって一日も早く美しく再生されることを願います。